東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)2891号 決定
申請人 原俊行 外七名
被申請人 日本セメント株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
被申請会社が申請人A、同B、同C、同E、同F及び同Gに対し昭和二十四年六月二十五日附を以てなした各解雇の意思表示の効力はいずれもこれを停止する。
申請人D及び同Hの本件仮処分申請はいずれもこれを却下する。
三、理 由
(一)、当事者間に争のない事実関係
申請人等はいずれも被申請会社の従業員であつて、その従業員等を以て組織せられている日本セメント労働組合の組合員であるところ、昭和二十四年六月二十五日附を以て被申請会社よりそれぞれ解雇の通告を受けた。
被申請会社の従業員は元各事業場毎に「日本セメント…………工場労働組合」等と称する労働組合を組織し、更にその事業場組合が構成単位となつて連合体たる「日本セメント労働組合連合会」が結成せられていたが、昭和二十四年二月十六日連合会はその組織を変更して単一組合たる「日本セメント労働組合」となり、単位組合たる事業場組合はその支部となつた。
これよりさき右連合会は昭和二十二年十一月十八日被申請会社との間に労働協約を締結し、その第十五条には「会社は左の場合を除き組合員を解雇するときは連合会又は組合と協議する。
一、停年(満五十五歳) 二、本人の都合による場合 三、賞罰委員会において懲戒解雇の基準に該当すると認められたもの 四、精神又は身体に故障があるか又は虚弱老衰疾病のため業務にたえられないと認めたもの」なる規定が存したが、右労働協約は昭和二十四年五月三十一日の経過と共に有効期間が満了した。
然るところ被申請会社は企業合理化を理由として前記の如く同年六月二十五日附を以て全従業員六千四百三十二名中申請人等を含む千三百十四名に対し解雇の通告をなすに至つたものである。(尤も企業合理化の必要性については申請人等も敢えてこれを争わない)。なお申請人等は前記連合会又は事業場組合若しくは改組後の単一組合又はその支部の役員を勤め、D、F、Hの三名を除く爾余の申請人等は、現に組合業務專従者である。
以上の事実はいずれも当事者間に争がない。
(二)、争点
(1)、「日本セメント労働組合連合会」より「日本セメント労働組合」への改組は組合の同一性に消長ありといえるか。
(2)、協約第十五条の協議約款は所謂余後効をもつか。
(3)、申請人等に対する本件解雇は労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為に該当するか。
(4)、労働組合法第二条但書第一号に該当する労働組合に係る場合に於ては不当労働行為は成立しないか。
(5)、組合業務專従者として、会社より支給せられる賃金と略々同額の給与を組合より受けているものについては地位保全の仮処分の必要はないか。
(三)、当裁判所の判断
以下前示争点の順序に従つて判断する。
(一)(1)の争点について
「日本セメント労働組合連合会」は被申請会社の従業員を以て組織せられる各事業場組合の連合体であり、「日本セメント労働組合」は被申請会社の個々の従業員を直接の主たる構成員とする単一組合であるが、前者も究極的には被申請会社の従業員を構成分子とするものであつて、両者の間に本質的な差異を認むべきではないから、右の如き改組は組合規約の改正によつて行い得るところであり、たとい改組の際形式的には組合の解散結成の手続が執られたとしても、これによつて組合の同一性が失われたものとみるべきではない。従つて被申請会社と、「日本セメント労働組合連合会」との間に締結せられた前記労働協約はそのまま「日本セメント労働組合」に承継せられたものとみるべきである
(二)(2)の争点について
「解雇は組合の同意を要する。」とか「解雇は組合と協議の上で行う。」という協約条項を仔細に分析してみると、その同意又は協議とは、一般的に前以て解雇の基準を設定して置くのではなくして、個々の具体的事案について、個別的に解雇の基準を設定し、当該解雇が、その基準に該当するか否かを判断し、その判断の合致を俟つて従業員を解雇するという構造をもつているものであることが判る。従つて右条項は「労働者の待遇に関する基準」を定めたもの、すなわち労働協約の所謂規範的部分に属するものといつて差支ない。尤も「同意」と「協議」とは本来その性質を異にするものではあるが、実際の運用に当つては、その差は結局程度の差に帰するといい得るであろう。なんとなれば、「協議」というも、単に一応組合との協議に附すれば足るの意ではなく、会社並びに組合の双方が信義則に基いて慎重協議を重ねてもなお妥結に至らず、又は組合側にのみ協議につき信義則違反の廉がある場合にはじめて会社は一方的に解雇権を発動し得るものと解すべきであり、従つて「同意」の場合に「同意拒絶権濫用」の法理が容認せられるとすれば、「同意」と「協議」との間には実質上大差はないものと認められるからである。
以上同意約款乃至協議約款は労働者の待遇に関する基準を定めるものであり、労働協約の所謂規範的部分に属するものというべきではあるが、さればといつてこれを直ちに労働条件―とりわけ解雇基準―を具体的に規定した条項と同様のものと考えることも亦適当ではない。けだし、それは本来使用者の経営権の範囲に属する「解雇基準の設定」並びに「解雇の当否の判定」という事項に組合が参加するという二重の経営参加を前提とするものであり、従つてたとい右条項が労働契約の内容に移行したとしても協約に定めた経営参加条項が有効に存続することを条件とするものだからである。
従つて本件の場合の如く、労働協約が終了し、その経営参加条項が効力を失つた場合には、協約第十五条の協議約款も当然に消滅に帰し、所謂余後効をもつに由なきものというべきである。
(三)(3)の争点について、
(イ)、申請人D及び同Hに対する本件解雇は不当労働行為とは認め難い。
右両名は被申請会社の東京機械製作所に勤務していたところ、同事業場は被申請会社の今次企業合理化のため已むなく閉鎖されることとなり、その従業員四十二名中、管理保全要員として谷川生産課長を責任者とし、その下に事務要員一名、電気係一名、警務一名計四名を残しただけで、その外は凡て一様に解雇されることになつたのであるが、右申請人両名はいずれも仕上工であるので管理保全要員としては不適当であることが認められる。
尤もDは仕上工の籍で、警務に携つたことはあるけれども本来は仕上工であり、且残留の警務要員和島金作より警務として優秀であるとは認め難い。してみれば右申請人両名がその他の従業員三十六名と同様に解雇されることも已むを得ぬことであつて、右両名が組合幹部なるが故に特に他より利益な取扱を受くべき理由はない。右申請人両名は、他の三十六名は自発退職で申請人両名のみがその意に反して解雇されたと主張するが右の自発退職は形式上然るのみであつて若し同人等がこれを拒否すればやはり申請人両名と同様解雇されたであろうことはみやすいところであるから実質的には一方的解雇と何等異るものではなく、従つて右申請人両名と他の従業員との間に差別待遇がなされたものと断ずるわけにはいかない。また従業員として右両名程度の地位の者につき全社的に配置転換を考慮すべしとすることもセメント及びスレートの製造を主たる業務とする被申請会社は機械仕上工をあまり必要としないことや、申請人Dについては警務の職歴があつても警務の職務はその性質上、当該事業場の人的物的な種々の情況に或る程度精通した者をこれに当てるのが上乘であることを考えれば、いささか難きを強いるの観を免れないであろう。とすれば、右申請人両名に対する本件解雇は是に已むを得ないところであつて不当労働行為には該当しないものといわなければならない。
(ロ)、申請人C、同E、同A、同F、同G及び同Bに対する本件解雇は不当労働行為として無効である。
被申請会社は今次の人員整理に当り、解雇基準として、(イ)老朽者、(ロ)出欠常でないもの、(ハ)長病欠勤者休職者又は病弱者、(ニ)非能率的のもの、(ホ)昭和二十年九月以降入社のもので業務に習熟しないもの、(ヘ)職場規律を紊すもの、(ト)非常勤嘱託者で不用のもの、(チ)臨時雇傭者、(リ)退職希望者、(ヌ)不要不急の部門に属するもの、(ル)機構簡素化により過剰となりたるものの十一項目を掲げこれにより全従業員六千四百三十二名中千三百十四名を解雇したのであるが、その人選の方法は右整理員数の定数に充つるまで先ず第一次的に(イ)から(ヌ)までの基準により解雇予定者を選びその不足の員数を残留者の中から更に第二次的に再度(イ)から(リ)までの基準を勘案して決定したものである。
換言すれば第一次的詮衡は消極的に悪い面から解雇者を選んだのであるが、第二次的詮衡すなわち(ル)の基準による詮衡に当つては積極的に良い面から被申請会社に於て残存を希望する者を選び、その選に洩れた者を解雇したともいい得るのであつて、程度の差はあるが、その判定は客観的な基準に従つたもので、被申請会社の全くの自由裁量によつたものではない。而してこの(ル)の基準により、C、E、及びAが、(ル)及び(ホ)の基準によりB及びGが、そして(ハ)の基準によりFがそれぞれ解雇されたのであるが、左に各人別につき述べるように右の解雇には納得し得ないものがある。
(一)、Cについての解雇基準。(ル)機構簡素化により過剰となりたるもの。
(A)、Cは後記のBと同様昭和二十一年十月大学新卒業生三十余名と共に将来被申請会社の中堅幹部候補として採用され入社したものであるが、この時既に被申請会社は人員過剰に苦しんでいたのであるから、かような社員は単に人員過剰という理由だけで解雇の選に入るべきものではない。勿論かかる社員と雖も絶対に解雇されぬ保障を与えられているものではないが解雇されるにはそれに相当する理由がなければならない。被申請会社のいうが如き「弱年」とか「経験が浅い」とかの理由は同人のような社員には寧ろ当然のことで、このため解雇されるとしたならばC、Bと共に入社した他の三十数名の者も同様解雇せらるべきものなのに、その内CとBのみが解雇されており、右両名に限つてかような差別待遇を受けなければならない理由が明らかでない。
(B)、而かもCの如く中堅幹部候補として入社した者については人員整理の場合は広く全社的に眺められるべきものであつて、従来同人が属していた糸崎工場人事課の課員のみを対照として狭く比較考量さるべきではない。全社的に眺める時はCより遙かに解雇基準(イ)から(リ)までに該当するものが相当残留しており、又事務社員は相当他工場に転勤の措置が講ぜられているのに、Cにはこれがなされていない。
(C)、視野を狭めてCの属していた糸崎工場人事課についてみてすら、Cを解雇することにより一応定員制(五名)通り過剩員を整理し得たが、その結果は事務繁忙のため他の係より応援を頼んでいる現状で同課の定員制が実状に副わぬこと夥しい。その反面他の係では定員制の実施に弾力性をもたせ人員整理は実状に即するようになされているため定員に対し剩員のある部門もある。而かも定員制の実施は当然残留者が十二分の能率を発揮し得るよう要請せられるものであるから、極力健康体の者が残留せしめらるべきであるにも拘わらず本件解雇当時胸部疾患で約一ヶ月も欠勤している者が解雇されずにいる次第である。以上を綜合して考えればCの解雇理由は明かに不当であり糸崎工場の人事課の定員はCを解雇するための口実としか思われない。
(一)、Eについての解雇基準。(ル)機構簡素化により過剩となりたるもの。
(A)、被申請会社は、Eが従来同人の属していた香春工場人事係の残留者に比較し技能の点で劣り且つ、協調性に欠けている旨を強調するが、米丸が同工場で社務に従事していた頃の工場長の言によればEは仕事に熱心であり、且つ、能力も他に比較して優るとも劣らず、全従業員の二分の一を解雇するような人員整理の場合にはじめて被整理人員の枠内に入るかもしれぬ男と目されている位であるから今次の人員整理六千四百三十二名中千三百十四名の整理ではその選に入るものとは思われず、殊に本件解雇当時整理人員詮衡の任に当つた工場長の赴任前より本件解雇までEは組合業務專従者の任にあり右工場長の下では社務に携つたことがないのであるから被申請会社主張のE不適格の事由は信用できない。
(B)、又同工場従前の人事係厚生係を合し新職制の人事係の中で解雇された十四名中十二名は女子で、男子は長病欠勤の十時某とEの二人のみであるが、前項の如く技能の点で他に劣らぬEを解雇する程の理由が見当らぬ反面、被申請会社の解雇理由とする定員制もその実施には弾力性のあるものであることを窺うに難くない。
(C)、なお旧人事係の残留者の中にはEより後に入社した者が四名――木村、大野(男子)北生、大西(女子)――あり、内大野、北生及び大西はいづれも終戦後に入社したもので、而かも昭和二十三年六月組合より除名されたものである。
(D)、又香春工場全体からみれば疾病や、昭和二十年九月以降入社のもので業務未習熟としてEより先順位に解雇されるに値すると思われるものが十数名残留しており、これらのものはいずれも一時組合より脱退した反組合的のものである。これら(C)(D)に挙げた者と比べてEが不当に差別されて解雇される理由が納得し得ない。
(一)、Aについての解雇基準。(ル)機構簡素化により過剰となりたるもの
(A)、Aは佐伯工場電気係に勤務中解雇されたものであるが、残留電気係四名に比較し技能の点では差別はつけられない。寧ろAの経歴昇進の程度からみれば却つて優秀ではないかと思われる。
(B)、右残留電気係員四名の内、不老及び津田が約半年職場委員を勤めただけで右四名共組合幹部となつたこともなく又熱心に組合活動をしたこともない。
(C)、Aを右残留電気係員と区別するに足る客観的な理由がない上被申請会社の主張する定員制は弾力性のあることも考慮せらるべきである。かく考えるときAの解雇理由にはいささか納得し兼ねるものがある。
(一)、Fについての解雇基準。(ハ)病弱者。
(A)、Fは胸部疾患により昭和二十三年十二月十七日より約四ケ月欠勤し、昭和二十四年四月より試験勤務(遅刻早退の自由を認められている勤務)に服し、同十七日の医師の診断では第一期の治癒状態に復し、試験勤務を完了、今後要注意の状態で就業支障なしと判定されたものである。右診断には要注意とあるも試験勤務は完了したとあり現に同年五月より同人は正式に勤務して支障なかつたのであるから病弱の程度が第一次的に解雇基準(ハ)に該当するとは思われない。
(B)、Fが勤務していた本社の社員中Fと同程度に解雇基準(ハ)に該当すると思われるものに山形、中条、近藤の三名があり、その内中条については特別の功労者としてFと差別する理由は諒解できるがFが山形、及び近藤の両名より不利益な待遇を受くべきものと認めるに足る資料がない。
(C)、第一次的に解雇基準(ハ)に該当せずとすればさきに述べた如く(ル)機構簡素化による過剰員で第二次的に解雇基準(ハ)に該当する場合であるがFの場合もその定員制自体に弾力性のあることを考慮すべきである。
(D)、なお俵田は大学卒業者として入社したものであるからCの場合と同様人員整理については全社的に広くみるべきものであつて、然るときは他工場に於てF以上に第一次的に(ハ)病弱者の基準に該当する者がそれぞれ数名いるにも拘らず解雇されずにおり、独りFのみがかような差別待遇を受けなければならぬ理由を首肯せしめるに足るものがない。
(一)、Bについての解雇基準。
(ル)機構簡素化により過剰となりたるもの及び(ホ)昭和二十年九月以降入社のもので業務に習熟しないもの。
(A)、昭和二十年九月以降入社のもので業務に習熟しないものという理由が当てはまるためには、入社以降解雇当時まで現実に会社業務に従事していたことを前提とする。若しこの間何等かの理由で就業できなかつたとすれば、たとい就業したとしてもなお未習熟を免れないと判断するに足る客観的な資料がなければならない。この資料がなければ不就業その他の理由で解雇するは格別「未習熟」を理由として解雇することは不当である。
飜つてBの場合について考えてみるに同人が会社業務に従事したのは入社の昭和二十一年九月より翌年十月まで(上磯工場では昭和二十二年一月より同年十月まで)の短期間でそれ以降解雇されるまでの一年八ケ月は組合業務專従者であつた。而かもBがこの期間社務に従事したとしてもなお且つ未習熟であろうと判断される資料は更になく、却つてその場合には十分習熟し得たであろうと推測される。元来実務から遠ざかれば未習熟となるのは当然で、このことは組合業務に專従する以上必然の結果である。この結果が解雇理由になるとすれば、それは組合活動に專従したことを理由とする解雇と表裏をなすものであり、結局これと同一に帰着する。組合業務專従者がその故を以て特別の利益を受け得ないのは勿論であると同様又その故を以て特別の不利益を課せられてもならないのである。
『未習熟』をのみ理由とするならば本件解雇はそれ自体で既に不当労働行為とすらいえるであろう。
(B)、前記Cの項で述べた(A)及び(B)の事項はそのままBの場合にも当てはまる。
(C)、Bの属していた上磯工場庶務課についてみれば残留の富田及び幾井はいずれも組合除名者である。
(D)、Bの場合にもその定員制自体に弾力性がある。現に被申請会社は今回の整理後新たに本社より茂木某を上磯工場労務課に転任させており、整理実施後組合との交渉の末事務系統の者五名を復職させている。
(E)、上磯工場事務系統全体についてみると解雇されたもの十九名中(ニ)非能率者十一名、(ハ)病弱長期欠勤者二名(イ)老朽者二名(イ)『過剰員』四名(この内B以外は女子)であり結局過剰員として解雇された男子はB一名であるがBが残留男子より能力が落ちるとは到底考えられない。
(F)、右の如き基準で十九名が解雇されたとしたら復職者五名の中にBは優先的に入つて然るべきであるのに本人の希望にも拘らず復職させられていない。要するにBの解雇基準中『未習熟』の点は不当であり『過剰員』の点は納得し得ない。
(一)、Fについての解雇基準、(ホ)昭和二十年九月以降入社のもので業務に習熟しないもの及び(ル)機構簡素化により過剰となりたるもの。
(A)、Fは東京スレート工場の電工として勤務していた。電工には外に杉本、小林の両名がいるがいずれも両工場にはFより後に勤務するに至つたものである。入社の時期からいえば杉本はFより早いが小林はFより遅い。殊に技能の点からみれば杉本もFより劣るように認められ小林に至つては昭和二十二年七月電工見習となるまでは電工としての経験がなく入社後夜間電気学校で約半年勉学した程度で到底Fに及ばないことが明らかに認められる。それにも拘わらず同人等は解雇されないでいる。
(B)、同工場全体についてみれば疾病で半年乃至一年欠勤しているもの二名、賞罰されたもの十九名おりいずれもFより先順位に解雇に値すると思われるものが解雇されていない。
(C)、Fは配置換転については最も有望であるにも拘わらずこれがなされず他の者が配置転換されている。
(D)、昭和二十四年十月工場の再開後定員では不足するので二名を定員以上に採用しており、このことから逆にFの場合にもその定員制自体弾力性のあるものであつたことが判る。要するにFに対する解雇基準もいずれも不当であり納得し得ない。
以上の如く申請人C、同D、同B及び同Fに対する解雇はそれ自体納得できないものであり又申請人A及び同Eが同人等と同等以上に解雇に値する者があるに拘わらずこれを差置き解雇された理由も納得できない。
(ii)、加之右申請人等六名の組合に於ける地位及びその活動の経歴をみるに
(A)、右申請人等はいずれも日本セメント労働組合連合会又はその構成組合、改組後の日本セメント労働組合又はその支部の組合幹部として指導的地位にあり、而かも昭和二十三年四月以降昭和二十四年六月本件解雇に至るまで右申請人等の所属組合と被申請会社とは、賃金スライド、最低賃金制、団協の有効無効、人員整理等の問題で殆んど絶間なく対立し、ストライキ等の争議行為これに対抗するロツクアウト等で実に激烈な鬪争に終始し、この間Eは昭和二十三年四月より同年六月に跨がる俗に所謂四、六の鬪争については最高幹部としてこれを指導し、B、C、D、A及びFはいずれも右四、六の鬪争以来一年以上の鬪争につき指導者として強硬活発な指導をなしてきたものである。このため被申請会社は右申請人等を強硬な組合指導者としてかねてより敵意を抱き殊にC、B及びDに対してはこれが甚だしかつたことが窺われ、右三名に対する解雇は被申請会社本社よりの指示で同人等所属の現地工場長はこれを左右し得なかつた事実が察せられる。
(B)、而かも前記(i)記載の通り納得できない理由による本件解雇が右激烈な鬪争の最中になされたのである。
(C)、なお今回の人員整理に於ては従来組合を除名され又は組合より一時脱退した反組合的の者六十数名は解雇基準に該当すると否とを問わず一名も解雇されていない。
(D)、又本件解雇後E等就職未決定者十二名が本社株式課に臨時雇として採用方を要求したところEのみ採用されなかつた。これはEが被申請会社と解雇につき抗争していることもその原因であるがEに対し四・六の鬪争の最高の指導者としての活動に対する報復的のものがあるように窺われる。
以上を綜合すると右申請人等六名に対する解雇は同申請人等が四、六鬪争以後の争議乃至争議行為を強硬に指導したことがその決定的な解雇理由で企業合理化のための人員整理に便乘したものと認めざるを得ない。而してこれらの争議乃至争議行為中昭和二十三年秋糸崎工場に於ける争議行為が労働協約中の平和条項に違反の疑を残すがそれはともかくこれは申請人Cの組合活動の中の極く一部分に過ぎず而かも右糸崎工場の争議行為の責任については被申請会社は組合の自治に委ねて解決したものであるからこれを問題とするには足りずその他違法と目すべき組合活動は認められない。
してみれば右申請人等六名は結局組合幹部として正当な組合活動をした故に解雇されたものであり、不当労働行為として本件解雇はいずれも無効たるを免れない。
被申請会社は組合幹部及び熱心に組合活動をなした者も相当数解雇していないからこれこそ本件解雇が不当労働行為でない証左であると主張する。成程組合幹部で解雇されない者が相当数存することは事実であるけれども、本件の場合はその内の首魁と目される一部の指導者を解雇し組合の団結の弱化を企図したことを窺うに難くない。
(四)、(4)の争点について
法外組合(労働組合法第二条本文には該当するが同条但書第一号及び第二号の要件を欠く組合)の組合員についても不当労働行為は成立する。
申請人等所属の日本セメント労働組合は本件解雇当時被申請会社の従業員中課長代理、係長、主任及び警務の職にある者の参加を許していた。然しこれらの職にある者が労働組合法第二条但書第一号所定の監督的地位にある労働者乃至使用者の利益を代表する者であるかどうかは暫らく措き、仮にそうであるとしても日本セメント労働組合が同条本文に所謂『労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織された団体』であることは極めて明白である。而して同法第七条第一号の不当労働行為が成立するには右の如き労働組合であれば十分であることは同法第五条第一項但書からも理解されるところであつて、若し被申請会社の主張する如く同法第二条本文に該当しても同条但書第一号の監督的地位にある労働者乃至使用者の利益を代表する者の参加を許している組合は労働組合法にいう労働組合に該当しない(但書第三号及び第四号の団体は当然に本文の要件を充さないから右第三号第四号は度外視する)から同法第七条第一号の不当労働行為も右の如き組合より組合員に対しては成立しないというが如き極めて形式的な論法を採るならば逆にこれと同様の論法で地方公共団体の警察吏員及び消防吏員は法外組合ならば結成加入してもよいことになり(同法第四条)、法外組合と使用者との労働協約は書面に作成し両当事者が署名することを要せずすなわち口頭だけで効力を発することになり(同法第十四条)、又同法第十五条の規定により制限されることなく法外組合との間の労働協約は三年を越えても有効に存続し且つ自動延長されている場合でも一方的に破棄することはできなくなる等その他却つて不当な結論に到達するから被申請会社のこの点に関する主張は採用し難い。
(五)、(5)の争点について
被申請会社は申請人B、同C、同D、同A及び同Fはいずれもその所続の日本セメント労働組合の組合業務專従者であつて、被申請会社より支給されていた賃金と略々同額の給与を右組合から受けているので生活上の困窮はないのみならず右組合の規約によりその意に反して解雇されても依然組合員としての地位を失わず組合活動ができるのであるから本件仮処分はその必要がないと主張する。
然しながら不当労働行為が禁止せられているのは第一義的にはこれにより組合の団結が侵害される点にある。そしてこの侵害が法的に救済されずに放置されるときは組合の団結が時々刻々に弱化する危険があることも容易に認められる。それ故不当労働行為が本案判決の確定まで放置されるとしたならばたとい本案判決で勝訴しても時既に遅く組合は弱体化し、回復し得ない損害を蒙ることが多いであろう。而して組合の弱化はとりもなほさず組合員の損害である。従つて被申請会社の前記申請人等六名に対する不当労働行為により申請人等所属の組合の団結の弱化の危険が現在ある以上これによる著しい損害を避けるため本件仮処分は必要であるといわねばならない。被申請会社の主張する解雇された個々人についての生活上の困窮や組合活動の支障は不当労働行為禁止の第二義的なもので、ただこれにより前記組合弱化の危険や損害が拍車をかけられるというに過ぎない。例えば使用者が従業員に賞与を給する場合熱心な組合活動をなしたものにはその額を減らしたとする。賞与の性質上その額を減らされたからといつて生活に困窮することもなかろうし又依然従業員であり組合員であるから組合活動には支障はないであろう。然しながらこの差別待遇が放置され速かに法的救済が与えられないとしたらこれにより組合の団結が弱化するであろうことは容易に察せられる。然り而して差別待遇の最たる解雇が放置されればこれが組合の団結に影響することの大であることはなお更いうまでもないであろう。
当裁判所が従来被解雇者の生活の困窮や組合活動の支障を掲げたのは右の場合のみ仮処分の必要があるとの趣旨ではない。かかる場合に於ては一層仮処分の必要性が高められるとの趣旨に於て判示したに過ぎない。なお前記申請人等六名の個人的立場についてみても成程被申請会社の主張する通り現にそれ程の損害はないと認められるが、然し右申請人等にとつては被申請会社の従業員として勤務することが目的であり、組合專従は第二次的のものであるといえるし又何時組合專従を解かれるかもしれない。そしてその時まで仮処分申請は許されず、解雇されたまま放置されるとしたならば、事実上これによる心理的圧迫も亦極めて大でありこれがため十分な組合活動をなし得ないであろうことも察しられるところである。
かような観点からすれば本件仮処分は十分にその必要性を具備しているものといわねばならない。
以上の判断は当事者双方の提出した疏明資料に基く一応の認定によつてなされたものである。
よつて主文の通り決定する。
(裁判官 古山宏 室伏壮一郎 今村三郎)